愛を待つ桜
   ☆。.:*:・゜★


「成城の実家へ?」

「ああ、そうだ。私たちの結婚を知って、静が帰国したんだ。稔夫婦にも声を掛けた。久しぶりに家族が揃うというので母も喜んでいる。私たちも悠を連れて行かないと……」


あの夜から、どことなくギクシャクが続いていた。

将棋崩しの、どれを取っても総崩れになりそうで……聡は恐ろしくて手が付けられずにいる。
夏海はふとした拍子にどこか遠くを見つめ、考え込むことが多くなった。

聡はそんな彼女を遠巻きに見つめるだけだ。

特に自宅では、夏海は悠から離れない。明らかに、聡とふたりきりになることを避けている。
こんなプライベートな話すら、聡は事務所で切り出していた。


「判りました。一緒に行きます」

「ひとつ……頼みがあるんだが」


聡なりに、言葉を選びながら口にする。


「何でしょうか?」

「もちろん、匡たちも来るんだが……。聞いたと思うが、嫁さんはもうすぐ9ヶ月だ。昔の話は耳に入れたくない。何も言わないでやって欲しいんだ」

「それは……私には、匡さんが嘘を吐いた訳を、問い質すこともできないんですか?」


夏海は聡の控え目を装った命令に目を見張った。


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