愛を待つ桜
そんな中、実光に次いで上座に座っているのが、匡と妻の由美だ。
夏海にとってはどうでもいいことだが、実光にすれば、後継者が誰かはっきりさせておきたいのだろう。

3年ぶりに会う匡は以前と変わりなかった。夏海に対しても、屈託ない笑顔で話しかけてくる。


「やあ、驚いたよ、夏海くんが兄貴とそういう仲だったなんてな。俺との見合いがきっかけで会ったんだろ? じゃあ俺がキューピッドかな」

「そのお見合いが上手く行ってたら、私はここにいなかったのよね。なんだか不思議だわ」


由美は保育士をしていたというだけあり、子供好きで明朗快活な女性であった。
夏海より1歳年上だが、逆に若く見えるくらいだ。
結果的に、長男の嫁である夏海が一番年下ということになる。

由美は、匡と夏海の間に縁談があったことは知っているらしい。

だが、匡の吐いた嘘まで知っているだろうか?

しかしそれは、張本人である匡も同じに見えるのだ。


(私を罠に嵌めながら、しかも本人の前で、どうしてこんな風に笑えるの?)


夏海の知る匡は、仕事は要領よくそつなくこなすが、女性にはだらしがない男だった。
彼がその場しのぎの嘘でごまかそうとする現場や、女性同士がトラブルを起こす場面に何度となく遭遇した。

だが、少なくとも女性を騙して罠に嵌めるような男ではなかったはずだ。


(まさか、私が縁談を断わったから?)


その真意を問い質したくて、夏海は匡のほうばかり気にしてしまう。


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