愛を待つ桜
夏海の微妙な気配を、聡は奥歯を噛み締めながら必死に耐えていた。

家族の前で声を荒げるわけにはいかない。父はともかく、母は何も知らないのだ。

加えて、目の前には由美もいる。
夏海に、由美を気遣えと言いながら、自分がぶち壊すわけにはいかないだろう。


そんな両親の思惑など知ろうはずもなく……悠は、ここ数ヶ月で突然増えた親戚に大はしゃぎであった。
食事が終わると早々に席を離れ、由美の隣に行く。


「なかに、なに、はいってるの?」


大きなお腹を見て、不思議そうな顔で質問する。


「赤ちゃんよ。悠くんの従妹になるの。女の子だから優しくしてあげてね」

「おんなのこ、なの? いもうと、みたいなの? ぼくね、おとうと、がいいの。パパ、おとうと、がいいんだよね!」


何気ない悠のひと言に、聡や実光はドキッとした。
そんな聡の様子に、夏海の表情も曇る。

保育士をしていた由美は、子供の扱いはとても自然で、一旦立ち上がるとスッと膝を折り、悠と同じ目線で笑いかけた。


「そうなの? 男の子だと一緒に遊べるから?」

「うん!」

「じゃあ、ママにお願いしなきゃね。――私も次は男の子がいいわ。あなたもひとりは男の子が欲しいでしょ?」

「あ……うん。そう、だな。まあ、どっちでもいいけどね」


匡は微妙な様子で言葉を濁した。
それは正面に座る次兄夫婦の顔色を気遣ったものであったが、嫉妬に狂う聡がそのことに気付くはずもない。


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