愛を待つ桜
そんな妹を見ながら、黙りがちな稔も珍しくジョークで応じた。


「じゃあ、僕も丸高だ。――でも、うちには絵里がいるからね。寂しくはないよ」


そう言って夫婦で顔を見合わせ、ゆったりと微笑む。


「絵里ちゃんは小学3年生なのよね。習い事はしてるの?」


夏海は間髪を入れずに、絵里に話題を振った。


「ピアノとスイミング」

「そう、じゃあ、静さんと同じね」


話題は自然に、ピアノのことになり……そのまま静の話に移って行くのだった。




「ごめんなさいね。気を遣わせてしまって」


後片付けをしながら、亮子が夏海に話しかける。

広い家だが住み込みの使用人はいない。掃除は主に業者に任せ、食事は通いの家政婦とともに、あかねが用意していた。

もちろん、3年前に夏海を招いたときのような大掛かりなパーティとなると、ケータリング業者に出張を頼む。だが、今日はそれほどではなかった。


ふたりの子供たちは静の弾くピアノに夢中だ。
由美には、「お腹が大きいんだから」と居間で両親の話し相手をお願いした。


< 135 / 268 >

この作品をシェア

pagetop