愛を待つ桜
「絵里ちゃんは、すっかりパパになついてるんですね。本当の親子みたい」

「ええ、稔さんは子煩悩で……本当は自分の子供が欲しかったんでしょうね。それは叶わないから、絵里がひとり娘だって、とっても可愛がってくださって……感謝してます。――悠くんはパパそっくりなのね。どうして結婚されなかったのか聞いてもいい?」

「さあ……どうしてかしら」


夏海の、声のトーンが一段沈んだ。


「ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。本当にごめんなさい」


亮子は慌てて謝る。


「いえ……色々誤解が重なって。タイミングも悪かったの」

「そうね、男と女だもの、色々あるわよね。でも、聡さまはお優しい方ですもの。これから幸せになれるわ、きっと」

「……ええ」


そうなればいいけど――夏海はそんな言葉を飲み込んだ。


「そうそう、ここのキッチン、食器洗い乾燥機がすごいのよ。奥様、じゃなかった、お義母様がアメリカから取り寄せて……」


亮子はそれ以上深く追求しようとはせず、家のことに詳しいのも家政婦として働いていた強み、と笑いながら話題を切り替えてくれた。
そんな年上の義妹に感謝しつつ、話を合わせて微笑む夏海だった。


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