愛を待つ桜
兄の剣幕に押され、彼は自動的に首を縦に振る。


「ひとつだけ、念を押しておきたい。悠は、俺の子供でいいんだな」

「はぁ? 何言ってんの? 兄貴の子なんだろう。DNA鑑定だっけ、したんじゃないの?」

「いや、もういい。判った。――嫁さんを大切にしろ」

「ああ、判ってる。兄貴も余計なこと言わないでくれよ。じゃ、お幸せに!」
 呑気な台詞を口にして、匡はそそくさと部屋を出て行った。



聡は本来、これほど愚かな男ではない。
だが、夏海にだけは……彼女が絡むと途端に平静さを欠き、思い込みによる有罪の証言ばかり集めてしまう。

匡との会話には微妙な食い違いがあった。

しかし、このときの聡には、それに気付くことができなかった。


< 140 / 268 >

この作品をシェア

pagetop