愛を待つ桜
匡が社長になれば、聡より多くの資産を持つことになる。
当然、動かせる金も桁違いだ。

もし由美と別れても夏海と結婚したいと言い出したら……鑑定を盾にされたら、自分の出番はなくなる。
ほんの数ヶ月パパと呼んだ男のことなど、あっという間に2歳児の記憶から消されるだろう。


聡は、足元が揺らいで吐き気がした。
表情を取り繕うこともせず、ふたりの間に割り込み、夏海と悠を取り返したのだ。



「聡さん! 聡さん! 何を怒ってるの? 聡さんったら!」


悠をキッズスクウェアに送り届け、エレベーターでふたりきりになったのを見計らい夏海は切り出した。


「ふたりきりで会うなと言ったはずだっ! なぜ会った!?」

「偶然よ。カフェで顔を見て、無視しろって言うの? それこそ変でしょう?」


聡は、夏海と視線を合わそうともしない。パネルの階数表示を睨みつけている。


「なぜ、悠まで会わせたんだ」

「悠とカフェでランチを取ってたのよ。そこに匡さんが来て……どうぞ、って言うのが自然だわ」

「偶然だと? 嘘を吐くな! 匡は知っていたんだ。双葉さんから君があそこに居ると聞いて」

「そんな……」


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