愛を待つ桜
そんなはずはない。
双葉に店の名前を伝えてはいないし、携帯に連絡もなかった。
匡は由美と訪れたことのあるキッズショップに、間もなく誕生する娘へのプレゼントを買おうと立ち寄っただけなのだ。
「――もういい」
「良くないわ。待って……話を聞いて、聡さん!」
その瞬間、扉が開く。事務所のある20階に着いてしまった。
「仕事だ」
聡は短く吐き捨てるように言う。
その声はあまりにも冷酷に響いた。
夏海は足が竦み、その場に立ち止まってしまう。
そんな彼女に、追い討ちを掛けるように、
「間違っても泣き出したりしないでくれ。これ以上、私に恥を掻かせるな」
背中を向けたまま、妻を見ようともせず吐き捨てたのだ。
夏海は姿勢を正すと聡を追いかけ、
「メーソン・エンタープライズ日本支社長との打ち合わせが15時に変更になりました。それから、エレックス社の役員変更登記の件ですが」
まるで何事もなかったかのように、淡々と業務報告を始めたのである。
彼女の意地であった。
双葉に店の名前を伝えてはいないし、携帯に連絡もなかった。
匡は由美と訪れたことのあるキッズショップに、間もなく誕生する娘へのプレゼントを買おうと立ち寄っただけなのだ。
「――もういい」
「良くないわ。待って……話を聞いて、聡さん!」
その瞬間、扉が開く。事務所のある20階に着いてしまった。
「仕事だ」
聡は短く吐き捨てるように言う。
その声はあまりにも冷酷に響いた。
夏海は足が竦み、その場に立ち止まってしまう。
そんな彼女に、追い討ちを掛けるように、
「間違っても泣き出したりしないでくれ。これ以上、私に恥を掻かせるな」
背中を向けたまま、妻を見ようともせず吐き捨てたのだ。
夏海は姿勢を正すと聡を追いかけ、
「メーソン・エンタープライズ日本支社長との打ち合わせが15時に変更になりました。それから、エレックス社の役員変更登記の件ですが」
まるで何事もなかったかのように、淡々と業務報告を始めたのである。
彼女の意地であった。