愛を待つ桜
その夜、昼間の父の様子に何事か察したのだろう、悠は寂しそうに話しかけてきた。


「ママぁ、パパおこってるの? ゆうくん、いいこだよ。ママおこってる?」


子供は大人が思うより、親の感情に敏感だ。しかも、自分が怒らせている、と考えてしまう。


「もちろん、悠くんは良い子よ。パパもママも怒ってないのよ。心配しなくていいからね」


夏海は悠の頭を撫でると、力いっぱい抱き締め「悠くん、だーい好き」と囁いた。


父親になりたいと言いながら、息子をこんなに不安にさせるなんて。
夏海が聡の言動に苛立ちを感じ始めたころ、彼は帰宅した。

深夜1時過ぎ、しかも、珍しく酔っているようだ。
わずかだが足元もおぼつかない。


そんな聡に「おかえりなさい」の言葉とともに、夏海は手を差し伸べたが……素気無く振り払われた。

聡は無言でキッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップに注ぐ。


「遅くなるなら、連絡くらい入れるものじゃないんですか?」

「俺が……遅い方が、都合がいいんだろう」


普段の聡とは明らかに違う。
聡には晩酌をする習慣もなく、夏海の前で酔ったことなど1度もない。

3年前も同じだ。


「お酒を飲まれてるんですね。だったら、話はできませんよね。私も、もう寝ます」


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