愛を待つ桜

(5)悪意ある誤解

匡、由美夫婦は白金台のマンションに住んでいる。

由美の希望で子供が産まれても、4~5年は夫婦で暮らす予定だった。そして、落ち着いたころを見計らい、一条の両親と同居する約束だ。

4LDKの1部屋は床をコルク素材に取替え済み。アーチ型の窓にはピンクのカーテンが掛かっていた。
ベビーベッド、ベビータンス、天井からはメリーゴーランドが下がり、後は子供の誕生を待つばかりである。


そんな幸せいっぱいの新婚家庭のリビングに、およそ不似合いな表情で智香は座っていた。


由美は義兄、聡の結婚が、事実上3度目になることだけは聞かされていた。

匡と見合いをしたのは昨年の春。
そのころ、智香は日本におらず、2度と一条家に関わる人間ではないと、誰もが思い伝えなかったのだ。

由美自身、実際に会うことはないだろうと思い、名乗られてもピンとこなかったくらいである。


そんな、いわく付きの女性に自宅まで訪ねて来られ、由美は戸惑った。
だが夫のことで話があると言われたら、無下に追い返すわけにもいかない。

そして智香が口にしたのは、あまりに突拍子もないことだった。


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