愛を待つ桜
「妻である由美さんがご存知ないのがお気の毒で……。匡さんの子供なら、あなたにも知る権利があるでしょう?」


なんと、間もなく臨月の由美に、智香は偏見に満ちた自説をぶちまけたのである。


「あの女は本当に恐ろしい女だわ。一条家に入るために、兄弟を手玉に取るんですもの。3年前は、聡さんが目を覚まして私を選んでくださったから、あの女は捨てられてしまったのよ。でも今度は、子供を盾に脅して来て……」


この智香に、聡がいかに苦労させられたか……由美は何も知らない。それが裏目に出てしまった。


「聡さんがあの女と結婚したのは、匡さんのためですのよ。だって、聡さんには子供を作る能力がないんですもの。彼が父親のわけがないわ。そうなったら……父親はねぇ。大変ですわね、お腹の赤ちゃんに腹違いの兄なんて」


そして、青褪める由美にとどめを刺す。


「これから、どうなるのかしら? ふたりで会っていても、家族と言えますものね。ふたり3人と作る気かも知れませんわ。あなたに男の子がおできにならなければ……あの女のことですもの、妻の座も狙ってくるんじゃないかしら。頑張って後継ぎをお生みにならないと」


由美の脳裏にある出来事が思い出される。

夏海の息子、悠が「おとうとがほしい」と言ったときの微妙な空気。

それらが指し示す驚愕の真実に、由美は背筋が凍りついた。


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