愛を待つ桜
それから間もなく、臨月に入ってすぐの検診で、由美は早産の危険性を指摘される。

妻子の身を案じた匡が、由美を成城の一条邸に預けた。
10代で母親を亡くした彼女は、実家には帰省する予定がなかった。出産前後はあかねの世話になることが、予め決まっていたからという理由もある。


だが由美は、智香から聞かされた言葉が耳から離れない。

真偽は気になったが、真実を知るのが怖い。
どうしても、匡に聞けずにいる。

しかしその由美の元に、夏海が悠を連れて現れた。

結果、事態は最悪の展開を迎える。



「あまり体調が良くないと聞いて……いかがですか?」


夏海はあかねから、


『出産経験もあって、歳の近い夏海さんが話し相手になってくれたら、由美さんの気も紛れると思うの。聡さんはまだ出張から戻られないんでしょう?』


そう声を掛けられた。
泊りがけで来て欲しい、悠にも会いたいしと言われたら、断わることなどできない。


夏海にしてみれば、智香が由美のところまで押しかけ、災いの種をふりまいている事など知ろうはずもない。


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