愛を待つ桜
それに、聡ともきちんと話し合わねばならない。

だが、当の聡はあれっきり、2週間も戻って来ないのだ。北京から直接、インドのニューデリーに向かったと聞いている。
予定は未定と化し、如月もお手上げ状態という。

夏海から逃げているのは明らかだった。



「ええ……大丈夫です」


由美は顔を伏せたまま答える。
夏海は、自分を見るなり由美の表情が曇ったことに気付き、次に掛ける言葉を選びかねていた。

そんな母親の横を、悠がすり抜ける。


「おばちゃん……いたいの? くるしいの? いたいのとんでけーって、する?」


ベッドから体を起こし、背をもたれ掛けて由美は座った状態だった。
悠はそんな彼女に無邪気な笑顔を見せ、手に触れようとしたのだ。

直後、由美は弾かれたように、小さな手を払いのける。


「私に触らないで! 出て行って! そんな……そんな子」


急に興奮した由美を周囲は唖然と見つめていた。

悠もそうだ。一瞬、ビックリして目を丸くしたが、すぐに声を上げて泣き始める。


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