愛を待つ桜
部屋の奥、窓際に立っていた匡も驚いて駆け寄り、


「どうした、由美? どうしたんだよ。悠くんは何もしてないだろ?」

「どうして? ねえ、どうしてあの子を庇うの!?」

「どうしても何も……」


匡は質問の意味すら判らぬ様子で、その場に立ち尽くしている。


「ごめんなさい。悠が何か言ったのなら謝ります、本当にごめんなさい。私……子供を連れて外に出てますから」


夏海にもさっぱり判らない。
だが、泣きじゃくる悠を宥めるためにも、早く外に出たかった。

だが今度は、その謝罪が由美の神経に障ったようだ。
ドア越しに聞こえてきたのは、「どうして夏海さんが謝るのっ!?」そう叫ぶ由美の声だった。



後から話を聞いたあかねも、首を捻っている。


「一体どうしたのかしら? この間は、悠くんみたいな男の子が欲しいっておっしゃってたのに」


夏海も同じ気持ちだ。
あの騒ぎの後も、悠の声が聞こえるだけで由美はヒステリーを起こしていた。


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