愛を待つ桜
その言葉に素早く反応したのがあかねだ。


「まだ、ってどういうことですの? 母さんにも判る様に話して頂戴な。夏海さんが3年前に付き合ってたのは聡さんなのよね? 匡さんとのお見合いは断わって来られたんですもの。そうよね。夏海さん」

「はい、匡さんは私にとって上司で、それ以上でも以下でもありません。悠は聡さんの子供です。信じてください!」


あかねにだけは信じて欲しい、夏海は心から願った。
悠を抱き締め、涙をこぼしてくれた義母にだけは……これ以上、出生を疑われては悠が不憫すぎる。


「嘘よ! じゃあどうして、鑑定しても無駄なんて言うの? 匡さんの子供だって判るのが怖いからでしょう?」

「違います。そうじゃありません!」


実光の前で、匡の嘘の理由は言えない。
それに、妻の由美にも知られたくはないだろう。

自分が傷つけられたからといって、他人を傷つけるのは間違っている。

それに、ここまで興奮した由美が、夏海の言葉を素直に聞くとは思えない。夏海は、匡本人が何か言ってくれることを願うしかなかった。


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