愛を待つ桜

(3)罪を知る時

聡はひと言も発する事ができない。

体が鉛のように重く、窓枠にもたれ掛かったまま離れようとしてくれないのだ。

知らず知らずのうちに鼓動も速まる。匡のひと言ひと言が聡を追い詰め、背中に冷たい汗を伝わせた。


「まったく。愚息という言葉が、これほど当てはまるヤツもおるまい! 夏海くんには、私から謝ろう。聡、怒りは冷めやらんだろうが、これでも弟だ。私に免じてどうか許してやっちゃくれんか?」


実光は気が抜けたように、ドサッとベンチソファに腰を下ろしながら言った。

やはり夏海は自分の思った通りのお嬢さんだった。
実光にすればホッとひと息だ。
心配は杞憂に終わった。そもそも焼けた杭などどこにも転がっていなかったのだ。


安堵した表情の父を見て匡も気分が楽になり、ついつい軽口も出る。


「ついでに由美にも説明してくれよ。俺の言葉なんか聞こうとしないだろうからさ」

「調子に乗るな! 女房には土下座して謝れ! この馬鹿息子がっ!」


そんな父や弟を横目にしつつ、稔は兄に語りかけた。


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