愛を待つ桜
「――3年前、お前から夏海との仲を聞かされて……その夜に妊娠を告げられた。俺は、騙されたと思った。1度ならず2度までも。今度は、ひと回りも年下の小娘にまで手玉に取られた、と。金目当ての娼婦呼ばわりして、子供は始末しろと彼女に金を叩きつけた。夏海は怯えて……俺から逃げ出したんだ」

「聡……お前、子供の存在を知っていたのか?」


自嘲気味に薄笑いを浮かべる聡に、実光は問い掛ける。
その声は微妙に震えていた。


「な、なぁ……彼女は否定しなかったのか? 俺とは、何の関係もないって言わなかったのかよ!」


さっきとは逆に、匡のほうが一歩踏み出し、聡の胸倉を掴んだ。


「言ったさ! 俺しか知らないと言った彼女を、嘘つきだと決め付けた。言葉の限り罵倒したんだ。4月に再会したときもそうだ。裁判にして子供を取り上げると、強引に詰め寄って入籍した。……とんだ茶番だな」

「なんで彼女を信じてやらなかったんだ! そりゃ、俺が言うことじゃないけど……。でも、好きだったら」

「女に騙されるのが怖かったんだ! 2度と同じ轍は踏みたくない。それだけだった」

「そ、そんな。だったらなんで、あのときに言わなかったんだよ。3年前に聞かれてたら、俺だって本当のことを言ったさ!」


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