愛を待つ桜
確かに、今夜の件で聡の怒りようは尋常ではなかった。いや、それ以前から聡と夏海の間にはどこかぎこちなさが漂っていた。

みんなもそのことに気付いていて、良からぬ想像もしていた。

だが、まさか聡に限って、と。


家族の目にも聡は、決して女性に対して積極的な男ではない。それも昨日今日のことではなく、学生時代から変わってはいなかった。
兄弟の中で最も人目を惹く都会的なルックスとは裏腹に、恋愛はイコール結婚に直結してしまう、いわゆる古風なタイプだ。

実光から見れば、どうしてここまで融通の利かない頑固者なのだろう、と思うこともしばしばあった。
だが、匡のようにやたら愛敬を振りまき、相手に期待を持たせるよりはるかにましと言えよう。


「……言えなかった」


聡は、喘ぐようにひと言口にした。

胸元から匡の手が離れると、再び窓枠にもたれ掛かる。何か支えがなければ、真っ直ぐ立っていることすら困難なようだ。

そして、口を開くと、もう1度嗤おうとした。

しかし、息を吐くだけで音にならない。


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