愛を待つ桜
抑揚のない声で恐ろしい内容を口にする。


聡の瞳は焦点が定まらず、壁に額を押し付けたまま動かなくなってしまった。まるで呼吸すら忘れているようだ。

実光も匡も、事態の恐ろしさに質問すらできない。


「兄さん、どういうことなんだ? もっと判るように……」


稔は顔面蒼白になりながらも聡を揺さぶる。だが、今の聡ではお話にならない。



稔は慌てて兄が落とした受話器を拾い、如月から詳細を聞いた。


「兄さん、早く行こう! 如月さんたちも向かってくれてるそうだ。もし、大きな手術が必要なら、兄さんの許可が要る。早く行かないと」

「もう遅い……遅いんだ」


聡は、そう呟いたまま動こうとしない。
初めて目にした不甲斐ない兄の横っ面を、稔は思い切り殴った。


「本当にそうなったらどうするつもりだ! いいのか、このまま2度と逢えなくても平気なのか!? しっかりしろっ!」


その言葉に聡は立ち上がり、駆け出した――。


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