愛を待つ桜
「そうですか。ご本人も気付かれていなかった可能性もありますね。現在、出血が続いておりまして……切迫流産です。しばらく絶対安静で様子を見ましょう。このまま出血が続くようなら、お子さんのほうは諦めていただく事になるかも知れません」


医者は淡々と説明を済ますと、聡の前から居なくなった。


「なあ、聡。今は双葉がついてるが、お前が傍に行ってやれよ」


如月の言葉に聡は力なく首を振る。


「ダメだ……夏海は俺を許さない。もう、お終いだ」

「何を言い出すんだ。ひょっとして夫婦喧嘩か? そんなこと結婚してりゃ、しょっちゅうだよ」

「違うんだ! ――全部、嘘だった。匡が言った言葉は全部嘘だったんだ! 俺は騙されまいとして……俺を信じて愛してくれた夏海をこんな目に」

「昔のことだ。全部水に流して、これから新しくやっていけばいいさ。だろ?」

「今夜のことだ! 匡の女房が、匡と夏海の仲を疑って……倒れて入院した。それを聞いた俺は、また夏海の言葉は一切信用せず、悠を取り上げて追い出したんだ! 何年も冤罪で責め立てられ、挙げ句に悠を失うと思って……夏海は自分から車道に」


次の瞬間、如月に胸倉を掴まれた。


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