愛を待つ桜
聡はそのまま、壁に叩きつけられる。


「いい加減にしろっ! そんなことは判っていたはずだ。彼女がそんな女じゃないと。お前は嫉妬心から、自分で自分を煽り続けた。やれることはただひとつ、彼女が目覚めたら土下座でもなんでもするんだな。言ったはずだぞ、もう40間近だ、やり直しはきかない、と」

「もし……もし、お腹の子供を失ったら? それでも、夏海は俺を許すと思うか?」

「ごめんなさい、で済めば俺たち弁護士は必要ないさ。だが、許すかどうか決めるのも俺たちじゃない。彼女自身だ。俺にも判らんよ」


如月に背中を押され……聡は、ソッと病室に足を踏み入れた。

衝立の向こう、白いベッドに夏海は横たわっている。

淡い月明かりが射し込み、彼女の頬を照らしていた。そのせいだろうか、頬は青白く見えて生気もない。

このまま死んでしまうのではないか、と悪い考えばかりが思い浮かんだ。


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