愛を待つ桜

(5)愛をもう一度

匡と由美の間に産まれた長女は、遥《はるか》と名付けられた。

由美は入院の翌朝に通常分娩で出産する。彼女が落ち着いたころを見計らい、あかねは匡が吐いた3年前の嘘に、全員が振り回されていたことを伝えた。


「匡さんの嘘が、どこかからあなたの耳に入ったのね。辛い思いをさせてごめんなさいね」

「いえ……私も悪いんです。匡さんの言葉を信じようとしなかったんですから」


出産を控えた不安もあったのかもしれない。

だが、今思えばなぜあんなに疑ってしまったのか、自分でも判らないと由美は首を捻る。
そしてそれが智香から聞いた話であることを一条の両親に打ち明けた。そのときはじめて、聡と智香の一連の騒動を聞いたのだった。

由美はよほど悔しかったのだろう。子供を産んですぐの体でなければ、智香のもとに怒鳴り込んで行きたいと憤りを露わにした。


「何となく、お義兄さんの気持ちが判るような気がします。私も夏海さんに謝らないと。でも1度も来てくださらないのは、やっぱり怒ってらっしゃるんでしょうね」


俯く由美に、あかねはこの1週間の騒動をどう切り出していいのか迷いつつ。


「ええ、それがね……」


夏海の現状を話し始めたのだった。



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