愛を待つ桜
「夏海くん、本当に申し訳ない。匡の馬鹿には改めて詫びを入れさせよう。それで聡のことなんだが……。何とか勘弁してやって貰えないか? 私の責任でもあるんだ。どうか、この通りだ」

「私からもお願いするわ。聡さんは、若いころに女性に騙されたことがあるから……よほど堪えていらしたのね。産まれて来る子供のためにも、もう1度やり直せないかしら?」


実光とあかねは交互に頭を下げた。

そんなふたりの言葉を、夏海は悠の横顔を見つめながら黙って聞いていた。


許すも許さないもない。離婚する、悠に2度と会わせない、そう言って追い出したのは聡のほうだ。
みんなから、なぜ三軒茶屋辺りにいたのか、と聞かれたが、夏海自身よく覚えていなかった。
終電には間に合ったし、タクシーにも乗れたはずだ。

多分、歩いてマンションに戻ろうとしたのだろうが……。

夏海はお腹に手を当て優しく擦った。

この子に気付いていれば、あんな無茶はしなかった。ほんの2~3日遅れている程度では気付きようもない。

おそらくだが、聡が強引な真似をした――あの夜の子供であろう。

夏海にはとても、聡の喜ぶ姿など思い浮かばなかった。


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