愛を待つ桜
「聡さんは望んでないと思います。その証拠に、1度も来てくれませんし」


そう……夏海が目を覚ましたとき、聡はいなかった。

双葉から、夏海が事故に遭った夜の聡の様子を聞き、密かに期待したのだ。
しかし、その思いは日を追うごとに萎んでいった。今では、双葉の夏海に対する気遣いだったと思っている。


「聡さんに結婚を強要するつもりはなかったんです。もちろん、お金も要りません。ただ、私のせいで、悠が父親から認めて貰えないのが可哀相で……」

「まあ、夏海さん! あなたのせいなんて、そんなわけがないでしょう? 責任は聡さんにあるのだから」

「いえ……もう、いいんです。ただ、悠は私が育てたいと思っています。お腹の子も。もちろん、子供たちから祖父母を奪うつもりはありません。いつでも会いに来てやってください。でも父親は……子供たちを傷つけるだけの父親なら、必要ありません」


夏海はきっぱりと、聡を愛することに終止符を打ったのだった。


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