愛を待つ桜
「聡さんが事務所を辞めるって……どういう意味ですか?」


9月も半ばを過ぎて、夏海はようやく退院する。
その直後、仕事の合間に自宅までお見舞いに来てくれた双葉から、聡の唐突な行動を聞かされたのだった。


「一条くんは弁護士を辞めるんですって。で、事務所の出資金はそのままで、名義をなっちゃんに切り替えたって。うちの近くに家も買ってたし」

「家? 家って……1戸建てとかの家?」

「そう。子供が4~5人産まれても、大丈夫そうな庭付き1戸建て」

「どうして、そんな……」


驚き過ぎて夏海は声も出ない。


「如月が言ってたわ。個人資産はほとんど信託財産に切り替えて、受益者は悠くんと産まれてくる子供に指定したんですって。ああ、家の名義もなっちゃんになってるって」


ドンッ!

夏海は思わずテーブルを握りこぶしで叩いていた。
テーブルに置かれたばかりの湯のみが揺れ、中のお茶が危うくこぼれそうになる。


「お金じゃないって、いつになったら判ってくれるの!?」


聡はいつまで夏海のことを、財産目当てだと思い続ける気だろう?


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