愛を待つ桜
夏海の入院中、可能な限り悠の面倒は見てくれていたようだ。
だが、遂に1度も見舞いには来なかった。退院してマンションに戻ってきた夏海を出迎えてくれたのも、聡が雇った家政婦。

あの夜、一条邸で別れて以降、彼とは1度も会っていない。


「判ってると思うわよ。でも、それしかできないんでしょうね。バカよね……会いに行けって言っても、尻込みして逃げ回ってるのよ。正式に離婚を言い出されるのが怖いんでしょうね」


怖いも何も、離婚を言い出したのは聡のほうである。
夏海は、悠と一緒でなければ離婚には応じない、と答えたままだ。


「離婚も何も……わけが判らないわ」


ため息混じりに離婚を口にした夏海に、双葉が何事かを思い出したように声を上げた。


「ああっ! 忘れてた。宮田秋穂さん……なっちゃんのお姉さんだっけ。離婚で揉めてたんでしょ?」

「え? ええ、まあ。でも、どうして双葉さんが?」


夏海の姉、秋穂は妻ある外科医と不倫の末、妊娠。挙げ句の果てに駆け落ちしたまま行方不明となっている。


その話を聞いた翌日、聡は専門の弁護士を雇って名古屋に向かわせてくれたはずだ。
思えばもう2ヶ月近くになる。
夏海自身に色んなことがあり過ぎて、うっかり忘れていた。

少しは進展があったのだろうか?


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