愛を待つ桜
夏海が不安げに口にすると、双葉が信じられない答えをくれた。


「お姉さんも相手方も、離婚が無事成立したんですってよ。2日前に事務所に連絡があったの。子供の件で調停が残ってるし、入籍までには半年掛かるようだけど……でも、概ね解決したって」

「い、いつの間にそんなことに」

「一条くんが色々手を回したみたいよ。あちこちに、ね。自分でも相当動いてたから」


夏海は開いた口が塞がらない。
それで姉が救われるなら、感謝すべきなのは判っている。

だが、お腹の子供が助かるかどうかの瀬戸際だったのだ。そんな夏海には会いにも来ず、どうして姉の離婚問題を優先するのだろう。
夏海には家を買い与え、財産さえ渡せばそれで済むと思っているのだろうか? 
さらには弁護士を辞めるなど……全く意味不明だ。


「あの人は、1度も私を愛してくれなかったのね。信じてもくれなかった。悠に不自由な思いをさせて、怒ってるのかも知れないけど。姉さんのことは感謝してるわ。――でも、私のことを判ってほしかった。聡さんが考えてることも、とうとう判らないままだった」


深く息を吐き、夏海は聡を責める言葉を口にした。
双葉に同意して欲しい。いや、いつかのように『アイツは間違いなくあなたに惚れてるわ。それも理性を失くすほどに』そう言って欲しかったのかも知れない。


ところが、双葉は夏海の予想外の言葉を口にする。


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