愛を待つ桜
「ふたりでしっかり手を繋ぎ合って進めるときもあるけど。誤って手を離してしまうこともある。あなたが掴んでくれてたら……私も握り返したのに。そう言ってる限り、どんどん離れて行くんじゃない?」

「でも、でも……私は、愛してるって言ったわ! 信じてって……それなのに」


夏海の言葉に何度も頷きながら、双葉は言った。


「そうよね、頑固な男よね。素直に自分の過ちも認められないし、頭を下げることもできない。前も言ったけど、幾つになっても変わらず馬鹿ばかりやってるわ。3年前もそうだったはずよ。ねえ、なっちゃん……あなたはあの馬鹿のどこに惚れたの?」


双葉は本気で聡を“馬鹿”だと言っているのだろうか。夏海は彼女の本心が判らず、首を捻る。

聡は夏海より遥かに高い所にいるはずだ。何でも判っていて、彼にできない事など何もない。

それが、間違っていたというのだろうか?

双葉の言うように、聡が“馬鹿な男”だとしたら……。

聡の心を求めて、上ばかり見て必死に探し続けてきた。でもそこに、彼の愛は見つからなかった。
最初から、夏海の思い描いた場所に居なかったのだとしたら?

聡に逢いたい。

逢って、自分は聡の何を愛したのか確かめたい。


その瞬間、夏海の胸にさざなみ立った。


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