愛を待つ桜
身辺はあらかた片付いた。離婚届が夏海に届くように手配すれば、すべて終わりだ。

家政婦から夏海が悠を連れて実家に戻ったと聞き、そのときを狙ったように、聡は我が家に足を踏み入れた。


わずか3ヶ月足らずの結婚生活だった。
夏海のいない数週間は、できる限り悠とともに過ごした。これが最後になると思ったからだ。


悠の姿を見ていると、知らず知らずのうちに涙が浮かんだ。

息子が初めて笑い、立ち上がり、パパと呼ぶ日の感動を、愚かな嫉妬から逃したことを痛感した。
次に生まれる子も、そんな奇跡の瞬間に自分は立ち会えない。

どこで間違えたのか、なぜ信じなかったのか。

真実を知ったあの日から、聡は自らに何百、何千回問いかけただろう。


――情状酌量の余地はない。


それが自身に下した判決であった。


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