愛を待つ桜
夏海はスッと聡の隣に立つ。
彼が手にした写真を見て、これまでになくハッキリと不満を口にした。


「本当は寂しかったのよ。悠をあなたに奪われそうで。あの子は何も知らずに、あなたに懐いてしまうし」

「判ってる。何も言わなくていい。全てが私の間違いで、私の罪だ。これまでの言葉は全部撤回する。責任は取るよ。だから」


激しい音が室内に響いた。

夏海が渾身の力で聡の頬を打った音だ。努めて冷静に、自分の非を詫びて身を引こうとした聡に、夏海の怒りは容赦なかった。


「何が判ってるの? お金なんか要らないって何回も言ってるじゃない! あなたはまだ、私のことをお金目当ての娼婦のように思ってるの!?」

「違う! ただ……私には金しかないんだ! 金で詫びるしか」

「そうやって逃げるのね。また、あなたに捨てられるんだわ。私のことも、赤ちゃんも、愛してるなんて嘘ばっかり言って!」


夏海の瞳に怒りの炎が燃えていた。聡を飲み込み、焼き尽くす勢いだ。


(当然だな。夏海が私を許すはずがない)


これまでずっと、聡はこの炎から逃げてきた。

匡の嘘を真に受け、偽りの盾を手に我が身を守り続けた、愚か者の末路であろう。

ひとつだけ残った疑問、なぜ友人までが自分に嘘を言ったのか……答えをくれたのは如月だった。


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