愛を待つ桜
やつれた――聡を見て、夏海は最初にそう思った。

たった1ヶ月会わなかっただけなのに、3年ぶりに会ったときより歳を取って見える。
目の前にいる聡は、まるで人生の終焉を迎えた老人のようであった。


「とにかく……謝罪のしようもない。君と悠の人生を狂わせて、申し訳なかった」


そう言って頭を下げたきり、微動だにしない。

匡に対して口にした『もういい』の言葉が、どうしても言えなかった。 


「じゃあ認めるのね? 悠はあなたの子供だって」

「ああ……間違いない。あの子は私の息子だ」


聡に少しでも自分たちの苦しみを判らせてやりたい。そう思って夏海はここに来た。

家政婦に、実家に戻る、と言ったのは嘘だ。
双葉は『なっちゃんがいる限り、家には戻れないでしょうね。臆病な男だから』そう言った。
まさか聡に限って”夏海から逃げている”なんてあり得ない。夏海は半信半疑で試したのだ。

そして、聡はここに来た。
夏海の顔を見るなり、怯えた子犬のように視線を逸らし、今にも逃げ出してしまいそうだ。


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