愛を待つ桜
40代後半の父だが、ひと回り年下の妻といるせいかとても若々しい。お腹も出ておらず、フリークライミングを趣味にしていた。

悠も壁登りが好きになり、小学生の頃から月に2回は連れて行って貰う。屋内の人工壁を登るのだが、まだまだ父には敵わない。口数は少ないが、穏やかで頼もしい父だった。

その父が、本当の父親ではないと知った時、悠はとてつもないショックを受けた。


そんな父は、母には際限なく優しい。

誰の誕生日であっても、父は花束を買って帰る。悠たちを産んでくれた母に、と言って渡す姿は、子供心にも気恥ずかしさを覚えたものだ。

父は自分の誕生日でも母に花束を贈る。母のおかげでこの1年が幸福に過ごせた感謝だという。

その時、母はこれ以上ないほど幸せそうな笑顔を見せ、父も優しく微笑むのだった。



「僕は……その、父さんたちが結婚する3年くらい前に産まれてるし……だから」


その瞬間、母は弾かれたように笑った!

泣くのかと思った悠はビックリだ。


「やだ、もう。悠ったら。鏡を見てご覧なさい。兄弟の中で1番お父さんにソックリなくせに」


母に両腕を引かれ、玄関脇にある姿見を覗き込む。

ひょろりと背の高い少年が映り、その背後に父が立った。祖母は顔を見るたび「日に日に聡さんそっくりになって」と呟く。

だが……。


「それに庭の鯉のぼりも、悠の為にお父さんが買ってくれたものよ。覚えてない?」


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