愛を待つ桜
悠は父が通っていたのと同じ、荒川区にある私立の中学校に電車通学していた。

この1年、電車の中では女子中学生から勘違いしたOLまで、色々話し掛けられて来た。多分、背が高いせいで高校生に思われているようだ。だが、途中で降りて楽しもう、と言われても訳が判らない。

悠自身は、女の子はインターネットの投稿サイトの映像で充分だ。父同様、恐ろしく真面目な性格のため、立ち入りを禁じられたサイトには一切近寄らない。


「そうか……悠には父さんの母校より、共学のほうが良かったかも知れんな。なんだったら高校からでも……」

「――聡さん」


父の言葉を母が制した。2人の間に微妙な空気が流れる。

悠は自分の言った言葉が、仲の良い両親の間に溝を作ったのではないか? と不安になる。どうしよう、何か言うべきかどうか、と胸を痛めた直後のこと。


「あのね……あなたたちに報告があるの」


悠は母の言葉にドキンとした。

何かあった時は母について行こう。父には申し訳ないが真っ先にそう思う。


「真くんが小学校に上がって……母さんの手を離れたでしょう。少し寂しいなって思っていたの……それで」


母が何を言い出すのか、悠は見当もつかない。


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