愛を待つ桜
「あっ、と」


悠《ひさし》が1個のソフトクリームを手に振り向いた瞬間。背中に誰かが当たり、ソフトは無残にも地面に落ちる。


「ごめんなさーい」


そんな黄色い声と共に、いきなり4~5人の女子が悠の周りに群がった。


「私たち、N女子短大なんですけどぉ」

「東京の大学生さんですよね? こちらにはお独りですか?」

「ひょっとして、デートがドタキャンになったとか?」

「よかったら私たちと一緒に回りませんか?」


そんな、かしましい声が一斉に頭に響く。


「あ、いや、あの……」


悠が即答できずにいると、売店の前に並んだ白い円形テーブルの間を、ひとりの少女が駆け抜けて来た。

髪をポニーテールにしてお気に入りの白いリボンで括り、テレビで人気のキャラクタードレスを着て、正義の味方に変身だ。


「パパぁ。ねぇ何してるの? ソフトクリームまだ?」

「……」


その言葉に短大生たちは潮が引くように消えたのだった。


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