愛を待つ桜
可愛らしい正義の味方のおかげで邪魔者はいなくなり、悠は苦笑しながら新しいソフトを買う。


「紫《ゆかり》、パパはやめろって」

「だって、お兄ちゃんにヘンなムシがつかないように、って。お姉ちゃんがそう呼んだらいいって言ったもん」


今年幼稚園の年少さんになったばかりの妹・紫は口を尖らせて言う。その仕草はあまりに可愛らしく、「まあ、紫がいいなら……」とか思ってしまうのは完全にシスコンかも知れない。

悠が顔を上げると、道路の向こうで10年後の紫が……いや、中学2年の妹・桜が手をひらひら振っていた。



ここは都会の喧騒から離れた、農業公園と書かれた中規模テーマパークである。

たくさんの動物がいて、牛の乳搾り体験や、サラブレットの乗馬体験、牧羊犬による羊の追い込みショーなども見られる。

ふれあい広場は小動物コーナーとワンワン広場に分かれていて、とにかく、たくさんの動物と文字どおり触れ合える。


きっかけは、紫が幼稚園から持ち帰ったパンフレットだった。


『しのぶちゃんも、たつしくんも、ゆきひとくんも行ったんだって。みんな、パパとお馬に乗ったんだよ。ゆかりも、パパとお馬さんに乗りたいっ!』

 
そのひと言で夏休み直前の日曜日、日帰りの家族旅行が決まったのである。


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