愛を待つ桜
二十分後――


「あ! パパだ! パパぁーっ! ママぁーっ!」


森の中にあるせいか、都会よりは気温が低い。とはいえ、決して涼しくはない中、悠は馬が放された柵の周囲をウロウロしていた。

桜は『馬に触っていた』と言っていた。てっきり柵越しに触れていたのだと思ったが……。

なんと、両親はサラブレットに乗り、駆けて来るではないか。

悠は目を丸くしたが、紫は嬉しそうだ。父が手綱を取り、自分の前に抱えるように母を乗せている。まるで20代の恋人同士のような両親に、悠は開いた口が塞がらない。


「お兄ちゃーん! ゆかりーっ!」


横乗りになっている母がこっちに向かって手を振った。


「ゆかりもっ! ゆかりも乗る! お馬さん乗りたいっ」



数分後、紫は母と入れ替わり、父と一緒に、馬に乗れてご機嫌である。

そんな父娘の姿を見ながら、悠の隣に立ち母が言った。


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