愛を待つ桜
「独身? そんなバカな……3年前に結婚されたんじゃ」

「え? そうなの? でも独身よ。少なくとも今は。派遣はみんな2年も経ってないから、3年前のことはわかんないな」

「そう、なんですか……」

「何? 何? 織田さんも一条先生を狙ってるクチ?」

「いいえ、まさか! あんな……」


最低な男、と言いかけて慌てて口を噤む。

何もかも知らん顔で、自分ひとりだけ幸せになろうなんて、そもそもムシが良過ぎたのだ。離婚したとしても当然だろう、と思う反面……。

3年前は、穏やかで春の陽射しのような笑顔を見せてくれたのに、今の聡は凍てついた氷の城の住人のようだ。いったい誰が、彼をあんな風に変えたのだろう。


「ねぇ、織田さんて子供がいるんですって? 幾つ? 離婚したの?」


そんな、ゴシップ記者さながらの質問攻めを、微妙な笑顔でかわしつつ、夏海は初めて知った聡の離婚に、心が揺れるのを感じていた。


   ☆。.:*:・゜★


「織田夏海ちゃんねぇ。お前の言うような、毒婦には見えないがな」


如月と聡は所長室にいた。

如月はブラインドの隙間を押し下げ、フロアを覗き見ながら聡に問い掛ける。 


「で、なんで採用してきたわけ?」

「言っただろう。彼女の息子は、私か匡の子供かも知れないんだ。このままにはしておけない」

「どうする気だよ」

「私の監視下におきたい。匡は半年前に結婚したばかりだ。もし、隠し子なんてことになったら……。奴の家庭を壊すことだけは避けたい」

「気持ちはわかるが、本当にそうなのか?」

「可能性だ」

「でも、この3年、何も言って来なかったんだろ?」

「実際、誰だかわからないに決まってる。私だったらいいが……もし……」


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