愛を待つ桜
3年前、夏海と縁談が持ち上がった匡は、昨年秋に結婚した。
妻の由美は現在妊娠5ヶ月、秋には出産予定だ。両親は、ようやく初孫を抱けると狂喜乱舞している。

そのおかげで、やっと聡も実家に顔が出せるようになった。

このまま行くと、匡が父の後継者に決まりそうで、一条家全体が、ようやくひと息つきかけた所だったのだ。

夏海の子供は男の子。
ここにもし、匡の隠し子の存在が明らかになれば……。やっと落ち着いた匡もどうなるかわからない。

たとえ、自分が防波堤となってでも夏海を匡に近づけるわけにはいかない。


「でも……お前の子供の可能性もあるわけだな。ってことは」

「わかってる、それ以上は言うな」


苦い顔で如月の言葉を遮り、彼の視線から逃げるように聡は来客用のソファに腰掛けた。


彼女と関係したのは1ヶ月間だけ。それも、最初のクローゼット以外、避妊は怠らなかった。
あのときの出血が女性特有のものなら、クローゼットでのセックスで妊娠した可能性は低い。

自分の子供でない確率のほうが高いと思うと、なぜかため息が出る。
決してホッとしたわけでなく、むしろ……。


「私は、あの女だけは許せない。長い迷宮から抜け出した私を、再び突き落としてくれた。もし、子供が一条の血を引いていたら……彼女から奪い取って、私と同じ苦しみを味わせてやる!」


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