愛を待つ桜
とりあえず、社長に挨拶をしなければならない。夏海は周囲を見回すと、社長秘書に声を掛けられたのだった。
社長夫妻は邸内のサンルームから桜を見ていた。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございました。私の両親です」
そう紹介すると、父も母も馬鹿が付くほど丁寧に頭を下げ、挨拶をしてくれた。
「まあ、お忙しいところ、よくお越しくださいました。パーティ用の出前ばかりなので、お口に合わないかも知れませんが……。楽しんで行ってくださいね」
社長夫人である一条あかねに偉ぶった雰囲気はまるでなく、終始にこやかだ。
社長自身も、まるで夏海の両親を主賓のように扱い、会社での彼女の仕事振りを大袈裟なほど褒め称える。
夏海は何事もなく終わりそうだ、と安心していた。
その数分後、実光がとんでもないことを言い始めるまでは――。
「実は、お嬢さんを匡の嫁に、と思ってましてね。不出来な三男坊ですが、ゆくゆくは次男と共に会社を任せたいと考えております。将来は夏海くんにも役員として、公私共に倅のパートナーとなって貰えたら、と」
夏海はもちろん、父も母も絶句している。
父はしばらくして、どうにか声を搾り出すが、
「な、な、な、夏海……お前、まさか、こちらのご子息と、そういうお付き合いをしているのか?」
「ま、まさかっ! 常務は私の上司です! そんなこと……」
「いやいや、お父さん、そういったことではないんです。夏海くんは非常に身持ちの確かなお嬢さんだ。そこを見込んで、息子の嫁に、とお願いしたいのです」
そこにあかねも口を挟んだ。
社長夫妻は邸内のサンルームから桜を見ていた。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございました。私の両親です」
そう紹介すると、父も母も馬鹿が付くほど丁寧に頭を下げ、挨拶をしてくれた。
「まあ、お忙しいところ、よくお越しくださいました。パーティ用の出前ばかりなので、お口に合わないかも知れませんが……。楽しんで行ってくださいね」
社長夫人である一条あかねに偉ぶった雰囲気はまるでなく、終始にこやかだ。
社長自身も、まるで夏海の両親を主賓のように扱い、会社での彼女の仕事振りを大袈裟なほど褒め称える。
夏海は何事もなく終わりそうだ、と安心していた。
その数分後、実光がとんでもないことを言い始めるまでは――。
「実は、お嬢さんを匡の嫁に、と思ってましてね。不出来な三男坊ですが、ゆくゆくは次男と共に会社を任せたいと考えております。将来は夏海くんにも役員として、公私共に倅のパートナーとなって貰えたら、と」
夏海はもちろん、父も母も絶句している。
父はしばらくして、どうにか声を搾り出すが、
「な、な、な、夏海……お前、まさか、こちらのご子息と、そういうお付き合いをしているのか?」
「ま、まさかっ! 常務は私の上司です! そんなこと……」
「いやいや、お父さん、そういったことではないんです。夏海くんは非常に身持ちの確かなお嬢さんだ。そこを見込んで、息子の嫁に、とお願いしたいのです」
そこにあかねも口を挟んだ。