愛を待つ桜
☆。.:*:・゜★


いい加減しつこい……勘弁してくれ。そんな思いで、聡は婚約者気取りの女性から逃げ回っていた。


一条家の長男・一条聡《いちじょうさとし》は日本でトップクラスの企業弁護士である。

東京大学・ハーバードロースクールと首席で卒業し、父の期待も大きかったが、彼は後継者を辞退した。
それには彼の最初の結婚が失敗したことも影響している。

母・あかねはその失敗を親の責任と思っており、「今度こそ」と、しつこく聡に見合いを勧める。
今、彼が逃げているのは、その母の紹介で1ヶ月前に見合いをした笹原智香《ささはらともか》であった。

波風を立てぬように断わっているのだが、なかなか理解してくれない。彼が母親に対して強気に出られないと気付いたのだろう。聡に出来るのは、可能な限り智香を避けることだけだった。

そんなとき、末弟の未来の花嫁に会いに来いと父に言われ、彼は仕方なしにやってきた。


匡の放蕩には聡も随分手を焼いた。

つい先日も、遠縁の女性と深い関係になり、彼は企業人として致命的な問題を起こしてしまう。女性には結婚を控えた婚約者がおり、しかも相手は某大臣の息子であった。顔を潰すには憚られる相手だ。

匡は最初、兄で弁護士の聡に泣きついてきた。
だが、とても一介の弁護士では手に負えず……結局、父の知るところとなってしまった。

父は話をつけてくれたものの、とうとう三男坊に最後通牒を突きつける。


「私が決めた縁談を、今度、お前から断わったときは、会社から叩き出すぞ!」

父の本気に、さすがの匡も観念したようだ。


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