愛を待つ桜
聡は混乱の極致にいた。

如月に言われたことで、努めて冷静に客観的に考えられるよう努力してみる。
だが、夏海のひと言ひと言に迷わされた。


彼女にとって本命は聡だった。計画通り妊娠したのに、匡との関係がばれて狙いが外れた、とか。

それとも、本命は他にいて妊娠を機に捨てられた。それでも子供を盾に結婚を迫るつもりが、産まれたのはその男の子供じゃなかった。

或いは、金さえあればターゲットは誰でも良かったのかも……。


最初の結婚が、聡の心の奥、最も深い部分を傷付けた。

彼には、自分の価値が金額にしか換算できない。

無意識に掛けたフィルターが、夏海の姿を真実からどんどん遠ざける。

そのことにすら、彼は気づけなかった。


加えて、聡を混乱に陥れたのは、夏海は子供のために結婚を望んでいることだ。

悠の父親となり、真面目に働く男なら誰でもいいと言う。

もしそんな男が現れたら……。

そう考えたとき、聡は身震いした。
明らかに自分の血を引く悠が、どこの馬の骨とも判らぬ男をパパと呼ぶのだ。
認知すらしていない聡は、悠に近づくことすらできなくなる。

さらに許せないのは、夏海が自分以外の男の妻になることだった。


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