愛を待つ桜
もどかしさは夏海も同じだった。

服の上から聡の指が体に触れる。
胸も、背中も、腰も……男らしくて大きな指に直接触って欲しい。彼の熱を直接肌で感じたい。
夏海はそんな思いに駆られていた。


シャツのボタンを3個目まで外したとき、聡の力に夏海はよろめくようになり……。

ガタンッ!

小さな食卓テーブルは抗議の音を立てながら、夏海の体を受け止めたのだった。

夏海はテーブルに両肘を突き上半身を起こした。
かろうじて、テーブルの端に腰が引っ掛かった格好である。

彼女は2歳児を持つ母親らしく、動きやすいジーンズを穿いていた。
それは男の誘惑やキッチンでの情事が想定外であることを証明している。



聡はそのジーンズのファスナーに手を掛け、できうる限り手際よく脱がそうとした。
しかし、その手つきは彼の洗練された容姿とは裏腹で、とても2度も結婚した男とは思えないたどたどしさだ。

無論、彼以上に経験のない夏海に気付いた様子はない。だが、そこは女の本能だろうか。彼女は自然に腰を浮かせたのだった。


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