愛を待つ桜
そこまでは1度も夏海の肌から唇を離さずにいた。

聡は体を起こし、夏海との間にわずかだが距離を取る。そのまま、お互いの瞳を見つめ合った。


(夏海は、私を拒絶するだろう……)


わずかに開きかけた彼女の口を指でなぞり、聡は軽く首を左右に振った。

今は何も言わないでくれ、そう言いたかった。

だが、


「……お願い」


唇に触れた聡の指に、彼女の震えが伝わる。そして夏海が口にしたのは、


「お願い……やめないで」


胸の奥が沸騰しそうなほど熱い感覚に捉われた。
脱がせようとしていたジーンズと下着は、彼女の片足に残ったままだ。

しかし、矢も盾もたまらず、聡は彼女の両脚の間に立ち、腰を掴んで引き寄せたのだった。



3年前、それぞれを絶望に陥れた、聡曰く、『愚行の極み』となった結婚。

あのとき、何をどうやっても智香相手にはピクリとも反応しなかった。
その男性自身が、夏海を前にするとさしたる愛撫すら必要ない。

まるで武士の刀が己の鞘を覚えているかのようだ。
対になる鞘にしか納まらない……彼の分身はそう主張していた。


そして夏海も、聡の指が探り当てた密やかな部分は、すでに彼を待ち焦がれていた。

やわらかく、熱く潤った彼女に覆いかぶさると、ふたりの距離はゼロになり、やがて彼女の領域に侵入して行く。

夏海の腕が聡の頭を抱き締め、彼女の切なげな吐息を耳元で感じた。


「……さとしさん」

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