愛を待つ桜
夏海の心は3年の時を遡り、聡の名を呼んだ。

例えようのない一体感が全身を包み込む。
繋がった部分は次第に温度を上げ、熱波となって夏海を襲った。
メチャクチャに壊されたとしても、その波に攫われたいと懇願するほどに。
彼に組み敷かれ、荒々しく突き上げられることは、悦びにほかならなかった。



波は聡にも伝わった。
子供を産んだとはいえ、夏海の体は昔と少しも変わってはいない。
恐ろしく狭い……動くたびに締め付けられ、我を忘れそうになる。

夏海のもたらす快感に気が狂いそうだ。
彼女の押し殺した声が耳に届くたび、その狂いそうなほどの欲情は更に燃え上がった。


4畳半の狭いキッチンは快楽の渦に飲まれ、激しく切ない吐息が充満する。

それはやがて、歓喜のときを迎え、重なり合うふたりが小刻みに震え……。


聡はその瞬間、堪えきれずに短く低い呻き声を発し、夏海を強く抱き締めた。

まるで百メートルを全力疾走したかように心臓は脈打ち、肩で息をしている。

しかし――グイッと体を起こすと夏海から自分を引き離した。



体に掛かる重みがなくなり……夏海は、わずかに揺れるペンダントライトを見ていた。
肌に感じる冷たい風が初体験を思い出させる。

やがて体を起こすと、思い出したように背中が痛んだ。

見下ろすと、足元にぶら下がったショーツが酷く惨めに思えた。
ジーンズは激しい動きに耐え切れなかったのか、足からずり落ちて流し台の前に転がっている。

そして、内股を伝わる情事の跡に夏海は全身が震えた。


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