愛を待つ桜
匡が結婚して子供でも生まれたら、両親の関心はそちらに移るだろう。
結婚結婚とうるさく言われることもなくなる。
それは聡にとっても非常に喜ばしいことであった。
聡はひと気のない場所を選び、母屋の1階奥にある紳士用トイレに駆け込んだ。
メインのパーティ会場である裏庭は、離れが開放されており、ほとんどの客はそこで用を足している。こんな遠くまでくる人間はいない。
一服してしばらく時間を潰した後、ついでと思い小便器の前に立った。彼が用を足し始めたとき、ふいに足音が聞こえる。
直後、トイレに人が飛び込んできた。
華やかなピンクのスーツが目に入り、一瞬、智香か? と聡はギョっとする。
しかし、今日の智香は白系の服を着ていたように思う。遠目に見ただけなので自信はないが、飛び込んで来た女性はもっと若かった。
腰まである美しい長い黒髪。鼻筋が通ってうりざね顔の古典的とも言える美人に聡は見惚れてしまう。
聡の妹もそうだが、最近はほとんどの女性が髪の色を染めている。
この時代にあって、これほど見事で艶やかな黒は滅多にお目に掛かれないだろう。
そんな思いもあり、彼はまじまじと見つめてしまった。
聡の視線を浴び、彼女はかなりびっくりしたようだ。
聡は慌てて視線をそらすが……生理現象は途中で止めるわけにもいかない。第一、紳士用になぜ? と聡も困惑した。
「あ、あの……すみません。私もお手洗いを使わせて貰っていいでしょうか? ずっと探してて……みつからなくて、あの」
どうやら切羽詰った状態のようだ。
そのせいか判らないが、彼女の頬は桜色に染まっていた。
「ああ……どうぞ。終わったら出て行くので、安心してくれ」
「は、はい、すみません」
そう言って彼女は個室に飛び込んでいった。
結婚結婚とうるさく言われることもなくなる。
それは聡にとっても非常に喜ばしいことであった。
聡はひと気のない場所を選び、母屋の1階奥にある紳士用トイレに駆け込んだ。
メインのパーティ会場である裏庭は、離れが開放されており、ほとんどの客はそこで用を足している。こんな遠くまでくる人間はいない。
一服してしばらく時間を潰した後、ついでと思い小便器の前に立った。彼が用を足し始めたとき、ふいに足音が聞こえる。
直後、トイレに人が飛び込んできた。
華やかなピンクのスーツが目に入り、一瞬、智香か? と聡はギョっとする。
しかし、今日の智香は白系の服を着ていたように思う。遠目に見ただけなので自信はないが、飛び込んで来た女性はもっと若かった。
腰まである美しい長い黒髪。鼻筋が通ってうりざね顔の古典的とも言える美人に聡は見惚れてしまう。
聡の妹もそうだが、最近はほとんどの女性が髪の色を染めている。
この時代にあって、これほど見事で艶やかな黒は滅多にお目に掛かれないだろう。
そんな思いもあり、彼はまじまじと見つめてしまった。
聡の視線を浴び、彼女はかなりびっくりしたようだ。
聡は慌てて視線をそらすが……生理現象は途中で止めるわけにもいかない。第一、紳士用になぜ? と聡も困惑した。
「あ、あの……すみません。私もお手洗いを使わせて貰っていいでしょうか? ずっと探してて……みつからなくて、あの」
どうやら切羽詰った状態のようだ。
そのせいか判らないが、彼女の頬は桜色に染まっていた。
「ああ……どうぞ。終わったら出て行くので、安心してくれ」
「は、はい、すみません」
そう言って彼女は個室に飛び込んでいった。