愛を待つ桜
夏海は聡に反論の時間を与えず、キッチンの奥にある洗面所に追い立てた。
聡は熱いシャワーを浴びながら、昨夜のことを思い出していた。
空白の3年間を埋めるように、何度も抱き合った。
数え切れぬほどのキスを交わし、聡は夏海の甘やかな肌に包まれ、朝まで1度も目を覚ますことなく眠った。
それはゆうに3年ぶりともいえる彼に訪れた熟睡であった。
(――もう手遅れだな)
自分は彼女の手管に堕ちてしまっている。
他の女には一切反応を示さない相棒が、夏海にだけはやる気満々なのだ。
3年前、事実上の離婚を申し入れ、逆に智香に訴えられた。
様々な事情から医者の診断書まで取らされたのだ。
性機能障害と言われ、診察でも微動だにせず、男としての自分は既に終わったと覚悟していた。
いや、正確には再び諦めた、と言うべきだろう。
その役立たずが、まさかこの歳でひと晩に3、いやキッチンを合わせると4回とは我ながら呆れ返る。
もう理由などどうでもいい。あれは最高のセックスだった。夏海も同様だろう。彼女とは離れられない、離れるべきでない。
そう思ったのだった。
ガタン……。
浴室のドアの向こうに夏海の姿が見えた。
あちこちで脱いだ聡の服を集めてきてくれたようだ。
「あんなところに脱ぎ捨てるから……上着もズボンもしわくちゃですよ。家に戻って着替えて来ないと、これじゃクライアントの前には……キャッ!」
濡れた手で腕を掴まれ、夏海は驚いたような声を上げる。
「一条先生! 何を考えて……」
「聡だ! 何度も言わせるな」
聡はそのまま軽く唇を重ねた。そして、夏海の耳の横で囁く。
「ちゃんと先のことを考えよう。悠のこともある。このままにする気はない」
「『このままにはしない。信じて欲しい』3年前に同じセリフを聞いたわ」
その声は冷ややかで、彼女は聡を押しのけた。
そして、悲しげな微笑みを浮かべ、
「昨夜は私も楽しみました。だから、お金の話はしないでください。それだけは……お願いします」
そう言って毅然とした表情を作る。
「私も身支度を整えますから。急いでください、一条先生」
それは、間違えようのない、ハッキリとした拒絶。
『あなたの言葉は2度と信じない』――そう言われたことに、いやでも気付かされた聡であった。
聡は熱いシャワーを浴びながら、昨夜のことを思い出していた。
空白の3年間を埋めるように、何度も抱き合った。
数え切れぬほどのキスを交わし、聡は夏海の甘やかな肌に包まれ、朝まで1度も目を覚ますことなく眠った。
それはゆうに3年ぶりともいえる彼に訪れた熟睡であった。
(――もう手遅れだな)
自分は彼女の手管に堕ちてしまっている。
他の女には一切反応を示さない相棒が、夏海にだけはやる気満々なのだ。
3年前、事実上の離婚を申し入れ、逆に智香に訴えられた。
様々な事情から医者の診断書まで取らされたのだ。
性機能障害と言われ、診察でも微動だにせず、男としての自分は既に終わったと覚悟していた。
いや、正確には再び諦めた、と言うべきだろう。
その役立たずが、まさかこの歳でひと晩に3、いやキッチンを合わせると4回とは我ながら呆れ返る。
もう理由などどうでもいい。あれは最高のセックスだった。夏海も同様だろう。彼女とは離れられない、離れるべきでない。
そう思ったのだった。
ガタン……。
浴室のドアの向こうに夏海の姿が見えた。
あちこちで脱いだ聡の服を集めてきてくれたようだ。
「あんなところに脱ぎ捨てるから……上着もズボンもしわくちゃですよ。家に戻って着替えて来ないと、これじゃクライアントの前には……キャッ!」
濡れた手で腕を掴まれ、夏海は驚いたような声を上げる。
「一条先生! 何を考えて……」
「聡だ! 何度も言わせるな」
聡はそのまま軽く唇を重ねた。そして、夏海の耳の横で囁く。
「ちゃんと先のことを考えよう。悠のこともある。このままにする気はない」
「『このままにはしない。信じて欲しい』3年前に同じセリフを聞いたわ」
その声は冷ややかで、彼女は聡を押しのけた。
そして、悲しげな微笑みを浮かべ、
「昨夜は私も楽しみました。だから、お金の話はしないでください。それだけは……お願いします」
そう言って毅然とした表情を作る。
「私も身支度を整えますから。急いでください、一条先生」
それは、間違えようのない、ハッキリとした拒絶。
『あなたの言葉は2度と信じない』――そう言われたことに、いやでも気付かされた聡であった。