愛を待つ桜
夏海は開いた口が塞がらない。今の聡は2歳児顔負けの駄々っ子だ。


「じゃあ、あの子が好きなファミレスで構いませんね? 子供に合わせてくださいますよね?」


少しは嫌がらせの意味もある。
聡のような男が、ファミリーレストランに、しかも子連れで入ったことなどないだろう。
ドリンクバーに水やスープを取りに行かせてやろう。それに懲りたら、2度とこんな強引な誘い方はしないだろう。

そんなことを思いつき、夏海は心の中で笑った。


「……判った、それでいい」


そんな夏海の思惑を知ってか知らずか、聡は全面的に彼女の要求を受け入れたのだった。
だが、夏海の不安は別の所にもあった。


(本当に、話だけで済むのかしら?)


昨夜の状況を考えれば、よもやそれだけで済むはずがないだろう。

夏海の目にも、聡があらゆる意味で焦れているのが丸わかりだ。

聡は悠を欲しがっている。
そして夏海のことも……いや、彼女の体を欲しがっていた。

もし、聡に求められたら……夏海の答えは決まっている。


信じることのできない男を、それでもまだ、信じたいと思っている。


そう、もう1度「愛している」と言われさえすれば、愚かにも同じ言葉を返すであろう自分に、夏海は気付いていた。


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