愛を待つ桜
   ☆。.:*:・゜★


聡は毎日のように結婚を口にし、その都度、夏海に断わられていた。

悠のためにも両親が揃っていたほうがいい。息子に最高の教育を施せる。2度と金に困ることはない。

どれだけ夏海に有利な条件を提示しても、首を縦に振ろうとはしない。


そうかと思えば、聡が部屋を訪れ、体を求めると素直に応じるのだ。
無論、2度目以降は夏海のほうから避妊具を突きつけられたが……。

もし妊娠していれば、結婚も承諾するだろうと期待したのだが、残念ながら、今回それは叶わなかった。


「結婚したさに妊娠したくせに、なぜ今になって断わるんだ! 悠のことも実子として届け出ると言ってるんだぞ! 私生児のままじゃ、今に必ず不都合が出るに決まってる! 一条家の嫡出子になるんだぞ、何が不服なんだっ!」


横にいるのは如月だ。
夏海と口論するたびに呼び出されるのだから、彼も気の毒だろう。

ここしばらく、聡は休日も夏海の家を訪れていた。
だが『今日はダメな日だから』と言われ、すごすご引き下がって来たのだ。


「彼女にとって私はセックスだけか? なんて女なんだ、全く!」


自分のほうから、体の相性がいいから妻にしてやる、と言い出したことは都合よく棚上げとなっている。
聡の愚痴には取り合わず、如月は別のことを尋ねた。


「彼女は、悠くんの父親のことは何て言ってるんだ? 匡くんだと認めたのか?」

「いや……」


その件についても、ふたりは言い合いをしたばかりだった。


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