愛を待つ桜
   ☆。.:*:・゜★


どうも理解できない。

手にした水割りグラスをクルクル回しながら、如月は首を捻った。


聡は故意に女性を弄び、責任逃れをするような男ではない。
それは弁護士バッジに懸けて言えることだ。

仮に、酒の勢いとかであったとしても、一夜でも夏海のような女性と関係したら、責任を取ります、と宣誓するようなクソ真面目な男なのだ。

おまけに、人の意見に耳を貸さない頑固者だから始末に終えない。


最初の妻・美和子は、どこから見ても財産目当てなのは判りきっていた。
如月をはじめ、友人たちは何度も忠告したが聞き入れず、散々絞り取られた挙げ句に身を持って裏切りを知る。

あの後、しばらくは大荒れだった。
女性不信を募らせ、奴の口から女の話を聞くことはなくなった。


そんな聡が3年前の春、唐突に運命の女性に出逢ったと、浮かれて小躍りを始めたのだ。
急げばジューンブライドに間に合うだろうか、と6月の予定を空け始めたのだから恐れ入る。

だが、それもわずか1ヶ月で……2度と聞かないでくれ、と声を落とした。


その後すぐ、とんだ茶番とも言える、笹原智香との結婚を決めた。
一連の騒動はあまりにお粗末で、仮にも弁護士ならもっと上手い手が打てるだろう? と、如月も力になろうとした。

しかし当の本人は『いいんだ。放っておいてくれ』それはまるで、自虐行為にも等しかったように思う。


――奴は一生、独身で過ごす気なのかもしれない。


如月がそう思いかけたころ、再び聡の人生に夏海が登場した。

まるで運命の悪戯のように。


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