愛を待つ桜
「う~~~ん」


黙り込んだまま何も言わない親友に、聡は不満げだ。


「おい。なあ、おい。聞いてるのか、修!?」

「聞いてるよ。お前、さ……そんなに強くないだろ? もう止めとけ」


5杯目を注文したのを横から取り消し、聡のためにウーロン茶を頼んだ。


「勝手なことをするな。どうせ歩いて数分だ。上に泊まってもいい」


ふたりが飲んでるのは、ヒルズの一角にある『グランドハイアット東京』内のバーだった。
聡はウーロン茶を断わると、今度は「ダブル……いやロックで」などと言い始める。
バーテンはどうしたらいいのか困り果て、素面の如月にSOSの視線を向けた。

それに気付いた如月は、ふと思いついたことを口にしてみる。


それは、夏海が親子鑑定を拒否する理由は判る、と言ったのだった。


聡は鼻で笑うと、


「理由? そんなもの、一々言われなくとも俺にだって判るさ」

「そうじゃない。悠くんがお前の息子だと確定したらお前はどうするんだ?」

「もちろん実子として届ける」

「認知するのか?」

「非嫡出のままにする気はない。夏海と入籍して長男として届ける。夏海が結婚しないと言い張るなら、認知して親権を争う。養子縁組してでも、俺の息子にする! 絶対だ!」


日本の制度上、甚だ不利な言い分だ。
しかし、一条家の財力と権力を使えばやりかねないだろう。
だが、認知できなければ全て不可能なことだ。


「ひとつの理由はソレだろうな」


聡は判らないのかきょとんとしている。


「認知を盾に、子供を奪われることを恐れてるんだろう」

「それなら……さっさと結婚すればいいんだ。そうすれば」

「で、鑑定で夏海くんの言葉が正しかったと判れば、お前はどうする気だ?」

「どう……って」


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